第90話:アスベストは危険物?石綿の資格・建築規制・輸出入・輸送実務をわかりやすく解説
アスベストは、国内の消防法でいう「危険物」と同じ意味ではありません。しかし、粉じんを吸入すると重大な健康障害を起こすおそれがあり、海上・航空・国際陸上輸送では、状態によってクラス9の危険物として扱われることがあります。
日本では、石綿を重量の0.1%を超えて含有する製品の製造、輸入、譲渡、提供、使用が原則禁止されています。一方、過去に施工された建築物、設備、配管、ガスケットなどは今も存在します。したがって、実務の中心は「新しく使用する」ことではなく、既存物の調査、維持管理、除去、廃棄、輸送、輸入品への混入防止です。
目次
アスベストは輸送上の危険物なのか
「アスベストは危険物か」という質問には、どの法令の危険物を指すかを分けて答える必要があります。消防法の危険物は、火災危険性を中心に第一類から第六類へ区分されます。アスベストは燃えにくい鉱物繊維であり、通常は消防法上の危険物として管理する物質ではありません。
一方、国際危険物輸送では、吸入可能な微細粉じんが健康を害する物質として、クラス9の国連番号が設定されています。角閃石系石綿はUN2212、クリソタイルはUN2590が代表的です。石綿の種類、含有状態、飛散可能性、製品中での固定状態、適用する海上・航空・陸上規則によって、危険物規制の適用可否が変わります。
ここで重要なのは、石綿を含む製品がすべて同じ輸送条件になるわけではないことです。石綿繊維がバインダーや樹脂、セメントなどに固定され、通常の輸送中に危険な量の吸入性繊維が放出されない状態では、特別規定により危険物規制の対象外となる場合があります。反対に、除去した吹付け材、破砕した建材、劣化した保温材、遊離した石綿を含む廃棄物は、飛散防止包装と危険物輸送の確認が必要です。
したがって、国連番号をSDSや過去の送り状から機械的に転記してはいけません。石綿の種類、含有率、製品形態、損傷状態、粉じん発生可能性、廃棄物か製品かを確認し、最新の輸送規則と運送人条件で判定します。とくに航空輸送は受託条件が厳しく、廃石綿は原則として専門処理ルートへ乗せ、一般の国際宅配便へ出さない運用が安全です。
建築物への使用は禁止だが既存建築物は直ちに違法ではない
日本では、石綿および石綿を重量の0.1%を超えて含有する製剤その他の物について、製造、輸入、譲渡、提供、使用が原則禁止されています。したがって、現在、新築建物や新しい設備へ石綿含有建材を採用することは認められません。海外で流通する古い規格のガスケットやパッキンを、日本へ輸入して設備へ組み込むことも避けなければなりません。
ただし、過去に適法に施工された建築物に石綿含有建材が残っているだけで、建築物全体が直ちに違法になるわけではありません。問題は、劣化や損傷で飛散するおそれがある状態、または解体・改修時に必要な調査や飛散防止措置を行わないことです。既存物は、所在、状態、含有範囲を把握し、封じ込め、囲い込み、除去、維持管理を計画します。
見た目で石綿の有無を断定することもできません。吹付け材だけでなく、スレート、けい酸カルシウム板、床材、外壁仕上塗材、配管保温材、ガスケット、パッキン、ブレーキ部品、断熱材、耐熱板などにも使用されてきました。製造年、施工年、改修履歴、メーカー資料、建材データベースを確認し、不明な場合は有資格者による事前調査と必要な分析へ進みます。
ある会社では、設備撤去や配管切断の前に、工事対象の写真、図面、施工年、部材一覧を安全衛生部門へ提出し、石綿事前調査の要否を判定しています。工事当日に現場で疑わしい保温材が見つかった場合は、触らず、切らず、作業を停止します。「古い設備だが過去に問題なく修理した」という経験は、非含有の証明になりません。
調査・除去・取扱いに必要な資格と教育
石綿関係の資格は一つではありません。事前調査を行う人、分析する人、除去作業を指揮する人、実際に作業する人で必要な資格や教育が異なります。「石綿作業主任者が一人いれば、調査から分析、除去まで全部できる」という理解は誤りです。
| 役割 | 主な資格・教育 | 実務上の注意 |
|---|---|---|
| 建築物の事前調査 | 建築物石綿含有建材調査者等 | 書面調査、現地調査、結果記録を行う |
| 工作物の事前調査 | 工作物石綿事前調査者等 | 対象工作物と施行時期を最新制度で確認する |
| 船舶の事前調査 | 船舶石綿含有資材調査者等 | 船舶特有の使用箇所を確認する |
| 建材中の石綿分析 | 法令で定められた知識・能力を有する分析者 | 採取位置、試料同一性、分析方法を記録する |
| 石綿作業の管理 | 石綿作業主任者技能講習修了者 | 作業方法、保護具、除染などを指揮する |
| 解体・改修等の作業者 | 石綿使用建築物等解体等業務の特別教育 | 主任者の指揮の下で作業する |
資格だけで作業が完了するわけではありません。工事規模や建材の種類に応じて、事前調査結果の報告、作業計画、届出、掲示、立入禁止、隔離、負圧管理、湿潤化、呼吸用保護具、保護衣、廃棄物包装などが必要になります。具体的な措置は工事条件で変わるため、元請事業者、安全衛生担当、専門業者が工事前に確定します。
工場の物流担当者が、密封済みの石綿含有廃棄物を伝票上で確認するだけなら、直ちに石綿作業主任者資格が必要とは限りません。しかし、容器を開ける、詰め替える、破砕する、清掃する、除去材を直接扱う作業は別です。物流工程だから資格不要と決めつけず、作業内容によるばく露可能性で判断します。
輸入では非含有証明と分析が重要
日本への石綿含有製品の輸入は原則禁止です。実務で注意すべき対象は、建材だけではありません。海外製のガスケット、パッキン、ブレーキライニング、クラッチ部品、耐熱材、電気絶縁板、実験器具、古い設備の補修部品などに混入する可能性があります。完成機械の一部として組み込まれていても、確認を省略してはいけません。
輸入者は、供給者の「アスベストフリー」というメールだけで済ませないことが重要です。製品名、型式、製造工場、ロット、対象部品、分析方法、分析者、検出結果、含有率が分かる証明書や分析結果を取得します。規制対象として指定された製品については、石綿障害予防規則に基づく所定の書面確認と保存が必要です。
海外では、法令の禁止範囲、閾値、石綿の定義、分析法が日本と異なることがあります。「現地法令に適合」は、日本の0.1%基準への適合を意味しない場合があります。そのため、発注仕様書や図面に日本基準での非含有要件を明記し、仕入先変更、材料変更、製造工場変更、金型・工程変更時には再確認します。
中古設備の輸入はさらに注意が必要です。新しい交換部品は非含有でも、設備本体に古いガスケット、配管保温材、ブレーキ部品が残ることがあります。設備全体の証明書ではなく、石綿使用歴がある部位を部品表や現物写真で絞り込みます。確認できない設備は出荷を急がず、輸入前に分析または部品交換を完了させる方が安全です。
輸出は製品か廃棄物かで手続が大きく変わる
日本の禁止規定は輸入、製造、譲渡、提供、使用を中心に定めていますが、だからといって石綿含有物を自由に海外へ出せるわけではありません。輸出物が再使用可能な製品なのか、修理返送品なのか、除去材や廃材なのかを最初に確定します。廃棄や再資源化が目的なら、廃棄物処理法、バーゼル法、外為法、輸入国法令の確認が必要です。
石綿を含む廃棄物や特定有害廃棄物等に該当する貨物では、経済産業大臣の承認、環境大臣の確認・許可、輸入国や通過国との手続、移動書類などが関係する場合があります。通常のインボイスとパッキングリストだけでは出せません。案件の初期段階で環境省・経済産業省の事前相談を利用し、処分目的を「中古品」や「サンプル」と言い換えないことが重要です。
分析試料や研究用途など、禁止の例外として厳格な手続の下で輸入、製造、使用が認められる場面はあります。しかし、一般企業が通常の調達や輸送で利用できる抜け道ではありません。許可、届出、密閉設備、容器、表示、保管、取扱者の知識など、個別要件を満たす必要があります。
輸送する場合は、廃棄物法令の該非と危険物輸送の該非を別々に判定します。バーゼル法の対象だから自動的にUN2212になるわけではなく、UN番号が付かないからバーゼル法の対象外になるわけでもありません。石綿種類、飛散状態、包装、目的地、輸送モードを整理し、専門の廃棄物処理業者、フォワーダー、運送人、関係当局の条件を合わせます。
発見から輸送までの実務フロー
疑わしい材料を見つけたら、最初の対応は「触らない、切らない、掃かない、通常ごみに入れない」です。作業を停止し、場所を区画し、工事責任者と安全衛生担当へ連絡します。粉じんが見えても、一般の掃除機やエアブローを使ってはいけません。飛散のおそれがある場合は、その場の専門対応手順に従います。
次に、建物、設備、部品の識別情報を集めます。施工年、製造年、メーカー、型式、図面、改修履歴、対象写真、使用箇所、損傷状態を記録します。有資格の事前調査者が書面と現地を調査し、必要なら適切な安全措置を取って試料を採取し、法令で認められた分析者へ依頼します。
含有が確認されたら、使用中の維持管理、封じ込め・囲い込み、除去、廃棄のどれを行うか決めます。撤去時は、専門業者が作業計画、届出、隔離、保護具、除染、包装、廃棄物処理まで設計します。発注者側は「業者へ任せた」で終わらせず、資格、処理委託契約、運搬先、マニフェスト、完了記録を確認します。
輸送前には、石綿種類、含有率、飛散可能性、廃棄物区分、容器・二重包装、表示、国連番号、国内運搬条件、海上・航空の受託可否を案件表へまとめます。運送人へは「建材くず」などの曖昧な名称ではなく、石綿含有の事実と状態を伝えます。積替えや開梱が発生しないルートを優先します。
- 作業停止と立入管理
- 対象物の識別と写真記録
- 有資格者による事前調査
- 必要に応じた試料採取・分析
- 維持管理または除去計画の決定
- 資格者、作業者教育、届出の確認
- 飛散防止包装と廃棄物区分の確定
- 危険物輸送・バーゼル法等の該非確認
- 運送人の事前承認と処理先の確定
- マニフェスト、移動書類、完了記録の保存
間違えやすいポイントと実務上の結論
最も危険な誤解は、「建物に残っているだけで違法だから、すぐ撤去する」という判断です。無計画な撤去は繊維を飛散させます。既存建材は状態を評価し、通常使用時の管理と、解体・改修時の除去を分けて計画してください。
次の誤解は、「アスベストは消防法危険物ではないから普通貨物」という判断です。火災危険性がなくても、輸送上のクラス9、労働安全衛生、廃棄物、バーゼル法の規制が関係します。制度ごとに該否を確認します。
- 古い建物に残っているだけで直ちに違法と決める
- 見た目だけで非含有と判断する
- 石綿作業主任者が事前調査や分析も自動的にできると考える
- 物流担当者が一般倉庫で開梱・詰替えする
- 海外供給者の自己宣言だけで輸入する
- 完成機械内部のガスケットやパッキンを確認しない
- 廃棄物を中古品、修理品、サンプルとして輸出する
- 国連番号の有無だけで廃棄物規制を判断する
- 破損建材を一般宅配便や通常混載へ渡す
実務上の結論は明確です。アスベストは、すべての制度で同じ意味の「危険物」ではありません。しかし、ばく露、工事、廃棄、輸送、輸出入の各段階で厳しい管理が必要です。会社では、疑わしい部材を発見した時点で物流判断を止め、安全衛生部門と専門業者へ接続するゲートを設けるべきです。
建築物への新規使用と日本への輸入は原則禁止です。既存建築物は、存在するだけで直ちに違法ではありませんが、解体・改修前の調査と適切な飛散防止措置が必要です。輸出入は例外的な研究・分析用途や、有害廃棄物等の越境移動として発生し得ますが、通常貨物として扱ってはいけません。
実務チェックリスト
- 対象物の施工年、製造年、メーカー、型式を確認した
- 最新の図面、建材情報、改修履歴を調べた
- 有資格者による事前調査の対象か確認した
- 試料採取と分析を適切な専門者へ依頼した
- 石綿作業主任者と作業者の特別教育を確認した
- 作業計画、届出、掲示、隔離、保護具を確認した
- 輸入品は日本基準の非含有証明とロット対応を確認した
- 設備内部のガスケット、パッキン、摩擦材まで確認した
- 輸出物が製品、修理品、試料、廃棄物のどれか確定した
- バーゼル法、廃棄物処理法、外為法を別々に確認した
- 石綿種類、飛散状態、包装から輸送分類を確認した
- 運送人と処理先から書面で受入承認を得た
参照・参考資料
- 厚生労働省「石綿障害予防規則など関係法令について」
- 厚生労働省「石綿総合情報ポータルサイト」
- 厚生労働省「建築物石綿含有建材調査者講習及び工作物石綿事前調査者講習」
- 厚生労働省「石綿含有製品等の製造、輸入、譲渡、提供又は使用の禁止の徹底について」
- 国土交通省「アスベスト問題への対応」
- 国土交通省・経済産業省「石綿含有建材データベース」
- 環境省「廃棄物・特定有害廃棄物等の輸出入」
- 経済産業省「バーゼル条約・バーゼル法」
- UNECE「Carriage in bulk of wastes containing asbestos」
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