第67話:SOLAS条約を実務目線で詳解|VGM・危険物・コンテナ・保安と2026年改正
SOLAS条約は、船舶の構造、設備、運航などについて国際的な最低安全基準を定める条約です。正式名称は「1974年の海上における人命の安全のための国際条約」です。一般の荷主にとっては、危険物申告、適合包装、コンテナへの収納、総重量確定、船社への情報伝達、港湾保安などを通じて実務へ影響します。
SOLAS条約だけを読めば、輸出業務のすべてが分かるわけではありません。個品危険物ではSOLAS第VII章に基づくIMDGコード、日本国内では船舶安全法、危険物船舶運送及び貯蔵規則、関係告示などを確認します。海洋汚染物質ではMARPOL条約も関係します。
本記事は2026年8月時点の公式情報を基準に、初学者向けに全体像を整理したものです。実際の可否は、最新版の法令、強制化されたコード、船社・港湾の受託条件、出発国・積替国・到着国の規制で個別確認してください。
目次
SOLAS条約は何を取り決めたものか
SOLAS条約の主目的は、船舶の構造、設備、運航について、安全と両立する最低基準を定めることです。旗国は自国船が基準へ適合するよう検査・証書発給を行います。締約国は、明白な根拠があれば外国船の適合性を港で確認できます。これはポートステートコントロールと呼ばれます。
現行条約は本文と附属書からなり、附属書は14章で構成されます。船体の区画・復原性、機関・電気設備、火災安全、救命設備、無線通信、航海安全、貨物運送、危険物、船舶の安全管理、海事保安、ばら積み貨物船、極海運航などを扱います。
荷主は船体検査を直接行いません。しかし、荷主が出す貨物情報が、船の積付計画、隔離、消火対策、重量・復原性、緊急時対応に使われます。誤申告や提出遅れは、単なる書類ミスではなく、安全な積載判断を妨げる問題です。
SOLASは「船の安全」の条約ですが、義務の実行には荷主、製造者、梱包者、コンテナ詰め事業者、フォワーダー、船社、ターミナルが関係します。社内では、法務部門だけの所管にせず、製品情報、環境管理、貿易、物流、倉庫、調達、営業をつなぐ運用が必要です。
貿易・危険物担当者が押さえる主要章
初学者が全14章を同じ深さで読む必要はありません。荷主・貿易担当者には、第VI章、第VII章、第IX章、第XI-1章、第XI-2章が特に関係します。自社船を運航する企業では、構造、消防、救命、無線、航海安全などの章も直接的な管理対象になります。
| 章 | 主な内容 | 荷主・貿易実務への影響 |
|---|---|---|
| 第I章 | 検査、証書、締約国による監督 | 船舶証書や運送可否の前提 |
| 第II-1章 | 区画、復原性、機関、電気設備 | 重量情報と安全な積付けの背景 |
| 第II-2章 | 防火、火災探知、消火 | 危険物の積載場所や火災リスク管理の背景 |
| 第VI章 | 貨物運送、積付け、コンテナ総重量 | VGM、貨物情報、固縛・積付け |
| 第VII章 | 危険物運送 | IMDGコード、申告、包装、表示、隔離 |
| 第IX章 | 船舶の安全運航管理 | 船会社の安全管理システム |
| 第XI-1章 | 海上安全強化の特別措置 | 船舶識別、検査等の基盤 |
| 第XI-2章 | 海事保安の特別措置 | ISPSコード、港への入構・貨物保安 |
第VI章の「貨物」と第VII章の「危険物」は別々に確認します。危険物である貨物は、第VII章だけ守ればよいわけではありません。重量、積付け、コンテナ状態など第VI章の要求も重なります。
また、SOLASとインコタームズは役割が異なります。SOLASは安全基準です。インコタームズは主に売り手と買い手の費用・危険負担などを整理します。FOBで買い手が船を指定していても、荷送人の危険物申告やVGMの責任が自動的に消えるわけではありません。
第VII章とIMDGコードの関係
SOLAS第VII章は、危険物の運送を対象とします。個品危険物については、IMDGコードに従う仕組みです。IMDGコードには、分類、国連番号、正式輸送品名、包装、容器性能試験、マーキング、ラベル、プラカード、危険物運送書類、コンテナ・車両への収納証明、積載、隔離などの詳細があります。
実務の出発点は製品名ではなく、輸送分類です。SDS第14項を確認しつつ、組成、物性、試験値、濃度、状態、用途などから最新規則で分類します。SDSが古い、海上輸送情報が空欄、製品名だけ一致しているという状態では、適正分類を確認できません。
荷主から船社へは、国連番号、正式輸送品名、クラス、副次危険性、容器等級、海洋汚染物質、引火点など、対象貨物に必要な情報を正確に伝えます。包装と数量が変われば、適用する包装基準や積載条件が変わることがあります。
コンテナへ危険物を収納する場合、外装表示だけでなく、内部の積付け、固縛、隔離も確認します。日本では、国際海上輸出コンテナのVGMに加えて、危険物を収納する場合はコンテナ収納検査が必要となる場合があるため、別手続として管理します。
船社の承認は法令判定の代替ではありません。IMDGコード上輸送可能でも、船社、寄港地、積替港、接続船が受託しない場合があります。逆に、予約画面へ入力できても承認完了とは限りません。「照会中」「条件付承認」「承認済み」「スペース確保」を分けて管理します。
第VI章とVGM制度
VGMはVerified Gross Massの略で、実入りコンテナの確定総重量を意味します。総重量の誤申告は、船の積付計画、コンテナ段積み、荷役機器、陸上作業者の安全に影響します。SOLAS第VI章第2規則の改正により、VGMは船積みの条件となりました。
責任主体となるshipperは、単に工場から発送する担当者とは限りません。IMOガイドラインでは、船荷証券、Sea Waybillなどに荷送人として記載される者、または船会社との運送契約が結ばれた者として整理されています。実務ではB/L上のShipperと社内の計量担当を区別します。
確定方法は二つあります。方法1は、貨物を収納したコンテナ全体を適切な計量器で計測する方法です。方法2は、個々の貨物、梱包材、固定材などを計測し、コンテナ自重を加算する方法です。推測値や注文数量だけでは足りません。
日本では、自らVGMを確定する荷送人は届出荷送人、荷送人に代わって確定する者は登録確定事業者として制度化されています。2022年9月には手続緩和を目的とした国内告示の一部改正が行われました。担当者は自社の届出・登録状態、使用する計量器、手順書、記録保存、業務継続報告や更新の要否を確認します。
VGMは船社やターミナルが指定する締切までに、船長または代理人とターミナルへ伝わる必要があります。計量済みでも、コンテナ番号、予約番号、重量単位、署名者、送信先が誤っていれば積付計画へ反映できません。訂正時の承認経路と再送ルールも社内手順に必要です。
船舶・港湾保安とISPSコード
SOLAS第XI-2章の下で、ISPSコードは2004年7月1日に発効しました。国際航海に従事する船舶と港湾施設の保安について、脅威評価、保安計画、保安レベルに応じた措置、責任者などを定める枠組みです。
ISPSコードのPart Aは強制要件です。Part BはPart Aの要求を満たすための指針です。政府、港湾当局、船会社などが、保安情報を収集し、脅威を評価し、船舶・会社・港湾施設の保安計画を整備する考え方になっています。
一般荷主への影響は、港湾施設への入構、運転者・車両の事前登録、貨物と書類の照合、封印、立入区域、撮影制限、搬入時間などに現れます。これらは港ごとの具体的運用として示されるため、SOLAS本文だけでなくターミナル規則を確認します。
危険物は安全と保安を分けて考えます。安全は漏えい、火災、反応、誤積載を防ぐ視点です。保安は不正持込み、改ざん、盗難、意図的な危害を防ぐ視点です。コンテナシール番号、施封権限、開封記録、再封印手順を決めておくと、通関と保安の両方で追跡しやすくなります。
社内ルールへ反映すべき事項
SOLAS対応は「貿易担当が船社へ送信する」だけでは完結しません。製品分類、包装設計、計量、コンテナ詰め、書類、予約、港湾搬入がつながるため、工程ごとの責任者と承認点を決めます。
| 社内ルール | 規定しておきたい内容 |
|---|---|
| 危険物判定 | 判定責任者、最新版SDS、組成・試験値、IMDG版管理 |
| 包装仕様 | 使用容器、性能表示、内装、吸収材、封かん、変更管理 |
| コンテナ詰め | 積付け、固縛、隔離、損傷確認、収納検査、写真記録 |
| VGM | 方法1・方法2、計量器、コンテナ自重、署名、訂正、記録 |
| 危険物書類 | 作成者、点検者、船社提出、承認状態、保存期間 |
| 変更管理 | 製品、組成、包装、数量、船、経路、積替港の変更時確認 |
| 緊急対応 | 誤申告、漏えい、発熱、積み残し発生時の連絡・停止 |
特に重要なのは、データの正本を決めることです。製品マスタ、SDS、梱包仕様書、危険物申告書、パッキングリストで重量や品名が食い違うと、どれを訂正すべきか分からなくなります。項目ごとに情報の所有部門を定めます。
この会社の社内資料でも、梱包仕様書を売り手から買い手へ提出し、個装からパレタイズまでの荷姿を定める考え方があります。また、コンテナ重量は海上輸送だけでなく、各国の公道における重量制限も確認する必要があります。SOLAS対応を、道路輸送や製品品質から切り離さないことが実務上重要です。
取引先・委託先との取り決めへの影響
基本契約、物流覚書、梱包仕様書、作業委託契約では、誰が「法令上の荷送人」で、誰が計量・書類作成・送信を代行するかを分けて記載します。作業を委託しても、B/L上のShipperとしての責任が当然に委託先へ移るとは限りません。
VGMでは、計量方法、使用設備、コンテナ自重の取得元、許容差の扱い、提出締切、署名権限、誤り発見時の訂正方法、再計量費用、積み残し費用を明確にします。船社・ターミナルの締切は航路や港で異なるため、契約本文だけでなく運用別紙で管理すると更新しやすくなります。
危険物では、製造者が提供する分類根拠、SDS更新期限、荷主が指定する包装、梱包者の作業範囲、コンテナ詰め証明、検査手配、船社照会の担当を定めます。供給者が危険物情報を変更した場合の通知期限も必要です。
誤申告や不適合が発生した場合は、貨物停止、情報開示、回収・再梱包、行政・船社への報告、追加費用、損害範囲、再発防止を協議する条項を設けます。ただし、法令違反を免責する合意はできません。契約は責任分担を明確にするもので、強制法規を上書きするものではありません。
社内の拠点間取引資料では、梱包仕様の事前合意がない場合の製品破損、過積載、責任範囲の不明確さがリスクとして挙げられています。取引条件だけでなく、安全情報と作業仕様まで書面化することが、手戻りと紛争を減らします。
改正の仕組みと2026年の注意点
1974年SOLASには、一定数の締約国が期限までに反対しなければ、定められた日に改正が発効する「黙示受諾方式」が採用されています。そのため、名称はSOLAS 1974でも内容は繰り返し改正されます。実務では「条約を一度読んだ」だけでは足りません。
IMOのSOLAS統合版2024年版に対する2026年1月追補では、MSC第106回から第108回で採択された複数の改正が2026年1月1日に発効したことが示されています。対象には第II-1章、第II-2章、第V章、第XIV章および証書様式の改正が含まれます。
この2026年追補を「すべての荷主についてVGM方式が全面変更された」と読むのは適切ではありません。確認できた公式追補の中心は、船舶構造、火災安全、航海安全、極海運航、証書関係です。VGMの基本である二つの確定方法と荷送人の情報提供責任について、IMO公式VGMページは従来の枠組みを案内しています。
一方、危険物担当者はSOLAS本文だけでなく、IMDGコードの改正周期を追います。IMDGコード第42-24改正に伴い、日本でも個品危険物の運送要件へ新規国連番号や条件変更を取り込む改正が行われています。ナトリウムイオン電池、電池駆動車両、木炭等の要件は、自社品に該当する可能性がないか確認します。
改正管理表には、採択日、任意適用開始日、強制適用日、国内公布・施行日、社内文書改定日を分けて記録します。船社が任意適用を早期開始する場合もあります。法令施行日だけでなく、取引先の受付開始・旧様式終了日も確認してください。
よくある誤解と実務トラブル
第一の誤解は、「SOLASは船会社だけの条約」という考えです。船そのものの適合責任は船会社・船主側にありますが、VGMや危険物情報は荷送人の業務へ直接影響します。
第二は、「フォワーダーへ委託したので責任も移った」という考えです。フォワーダーが計量や申告を代行しても、運送書類上のShipper、委託契約、国内制度上の届出・登録を確認する必要があります。
第三は、「VGMと貨物正味重量は同じ」という誤解です。VGMは貨物、包装材、固定材などとコンテナ自重を含む実入りコンテナの総重量です。パッキングリストのNet Weightをそのまま送信してはいけません。
第四は、「危険物でなければVGMは不要」という誤解です。VGMは原則として実入り海上輸出コンテナに関する要求です。危険物か一般貨物かとは別の判定軸です。
第五は、「船社が予約を受けたので承認済み」という誤解です。危険物承認、VGM受領、ターミナル搬入、スペース確保は別の状態です。危険物のコンテナ収納検査もVGMとは別手続です。
第六は、「2026年にVGMの新方式が国際的に一斉導入された」という未確認情報です。公式追補と国土交通省の現行制度を確認し、非公式記事の期限や罰則をそのまま社内通知へ転記しないでください。
担当者向け確認チェックリスト
次の項目を案件ごとに確認すると、SOLAS、IMDG、国内法、船社ルールの抜けを減らせます。チェック結果だけでなく、確認した資料の版、確認者、確認日、船社回答を残します。
- 対象貨物は一般貨物、個品危険物、ばら積み貨物のどれか
- 使用するSOLAS、IMDGコード、国内法令の版は最新か
- SDS第14項と分類根拠は一致しているか
- 国連番号、正式輸送品名、クラス、副次危険性、容器等級は正しいか
- 包装、表示、ラベル、プラカード、書類は一致しているか
- コンテナ収納検査の要否を確認したか
- B/L上のShipperとVGM責任主体を確認したか
- VGM方法、計量器、コンテナ自重、署名者を確認したか
- 船社・ターミナルの提出締切と送信方法を確認したか
- 積替港・接続船を含む危険物承認を確認したか
- 予約、危険物承認、VGM受領、スペース確保を分けて管理したか
- 変更時の再判定・再承認・再送手順が決まっているか
- 誤申告時の貨物停止と緊急連絡網があるか
- 委託先・取引先との責任、費用、記録の取り決めがあるか
定期監査では、手順書だけでなく実績を抽出します。VGM訂正、危険物書類の差戻し、積み残し、包装変更、船社承認遅れについて、原因と再発防止を確認します。担当者教育には、正しい例だけでなく、重量単位違い、コンテナ番号違い、古いSDS、積替便未承認などの事例を使うと実務へ結び付きます。
まとめ:SOLASを「船の規則」で終わらせず、貨物情報の流れへ落とし込む
SOLAS条約は、船舶の構造・設備・運航に関する国際的な最低安全基準です。荷主には、第VI章の貨物・VGM、第VII章とIMDGコードの危険物、第XI-2章とISPSコードの港湾保安が特に関係します。
実務上の中心は、正しい貨物情報を、正しい責任者が、正しい期限までに伝えることです。危険物分類、包装、コンテナ詰め、VGM、予約、ターミナル搬入を別々の担当作業にせず、一つの輸送工程として管理します。
2026年1月には複数のSOLAS改正が発効していますが、公式追補で対象章を確認する必要があります。VGMの全面的な新制度と誤解しないでください。危険物担当者は、IMDGコードと国内法令の改正も並行して追います。
社内規程と取引先覚書には、責任主体、使用する規則の版、分類根拠、計量方法、提出期限、変更管理、緊急対応、記録保存を具体的に定めます。条約名を書くだけでなく、誰が何をいつ確認するかまで落とし込むことが重要です。
参照・参考情報
- IMO「International Convention for the Safety of Life at Sea (SOLAS), 1974」
- IMO「Verification of the gross mass of a packed container」
- IMO「SOLAS XI-2 and the ISPS Code」
- IMO「SOLAS Consolidated Edition 2024 - Supplement January 2026」
- IMO「Amendments to IMO instruments」
- 国土交通省「国際海上輸出コンテナ総重量確定制度」
- 国土交通省「国際海上輸出コンテナの安定的な輸送維持に向けた取組み」
- 国土交通省「船舶による危険物の運送基準等を定める告示等の一部改正案」
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