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第78話:危険物輸送でも保険はかけられる?貨物損害・流出処理費・賠償責任の違いを整理

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危険物であっても、通常は外航貨物海上保険などの貨物保険を付けることができます。ただし、一般貨物と同じ情報だけで自動的に引き受けられるとは考えないでください。危険物の種類、性質、数量、容器、輸送モード、航路、積替え、保管条件などを告知し、保険会社の引受条件を確認する必要があります。

最も重要な結論は、貨物保険だけで危険物事故の費用をすべてカバーできるとは限らない、という点です。貨物自体の損害、残存物の取片付け・廃棄、第三者への損害賠償、環境汚染の浄化、行政対応、事業中断は、それぞれ別の補償領域です。

実務では、貨物保険を基本に据え、必要に応じて運送人賠償責任保険、施設・事業活動の賠償責任保険、環境汚染に関する補償などを組み合わせます。「危険物用の保険が一種類ある」と考えるのではなく、事故後に誰が、何に対して、どの費用を負担するのかを分解して設計します。

危険物でも通常は貨物保険を付けられる

危険物だから保険を付けられない、という理解は正しくありません。国際間の海上・航空・陸上輸送中に貨物へ生じる偶然な事故を対象とする外航貨物海上保険は、貨物の特性と輸送実態に応じて条件を設定する保険です。危険物も、保険会社が必要情報を確認し、引受可能と判断すれば契約できます。

ただし、すべての保険会社、すべての商品、すべての契約形態で同じように引き受けられるわけではありません。危険性が高い物質、大量輸送、温度管理品、廃棄物、使用済み電池、試作品、損傷品、特定地域を通る貨物などは、追加情報の提出、個別審査、条件変更、免責金額の設定、引受限度額の設定、場合によっては引受不可となる可能性があります。

企業が継続的に輸出入する場合は、出荷ごとに一件ずつ契約するより、包括予定保険を検討する方が実務的です。包括契約では、対象貨物や輸送区間などをあらかじめ取り決め、個々の出荷を通知して保険証券類を発行する運用が一般的です。ただし、包括契約に危険物が含まれているか、除外貨物や個別申告対象がないかを必ず確認します。

実務家としての推奨は、危険物を初めて扱う時点で保険代理店または保険会社へ相談し、出荷直前に初めて告知しないことです。容器、包装、輸送モード、航路が決まる前に相談すれば、引受条件を輸送計画へ反映できます。

また、保険が付くことと、運送人が貨物を受託することは別です。保険会社が引き受けても、船会社や航空会社の危険物承認がなければ輸送できません。逆に運送人が受託しても、貨物保険の補償範囲が十分とは限りません。

通常貨物との違いは引受審査と告知情報

通常貨物と危険物で、貨物保険の基本構造が完全に別物になるわけではありません。火災、爆発、輸送用具の事故、盗難、破損など、輸送中の偶然な事故による貨物損害を補償するという基本は共通します。違いが出やすいのは、申し込み時に必要な情報と、保険会社が評価するリスクです。

危険物では、一般的な品名だけでなく、正式輸送品名、国連番号、危険物クラス、副次危険性、容器等級、数量、濃度、状態、引火点、温度条件などを求められることがあります。最新版SDS、危険物申告書、包装仕様、容器証明、運送人承認などを準備しておくと、照会が円滑です。

包装と積付けも重要です。貨物保険では、被保険者側による不完全な荷造り・梱包や、保険開始前に行われた不適切なコンテナ積付けが免責となることがあります。危険物輸送規則に適合した容器を使っていても、指定された内装容器、吸収材、緩衝材、封かん方法を守っていなければ、事故後の保険判断へ影響します。

危険物の申告を省略したり、通常品として申し込んだりする行為は避けてください。告知内容が故意または重大な過失によって事実と異なる場合、契約解除や保険金不払いにつながる可能性があります。輸送途中で品目、数量、航路、輸送モード、保管場所などを変更した場合も、通知が必要か確認します。

社内手続では、保険申込情報を物流部門だけで作らせず、環境・安全部門、技術部門、貿易部門で照合します。SDS上の名称とインボイス品名が異なる場合は、同一物であることが分かる管理番号を持たせると、保険会社、フォワーダー、運送人への説明が容易になります。

貨物保険で補償されるもの・されないもの

外航貨物海上保険の中心は、保険対象である貨物そのものの損害です。契約条件に応じて、火災、爆発、座礁、沈没、転覆、衝突、落下、濡れ、破損、盗難、不着、外的原因を伴う漏出などが対象になります。補償範囲は、協会貨物約款の条件や特約によって異なります。

貨物の損害に伴う費用として、残存物の取片付け・廃棄、検査、急送、再梱包などを補償する商品・特約もあります。ただし、名称が似ていても、支払条件、限度額、事故との因果関係、事前承認の要否が異なります。事故後に費用を使ってから請求するのではなく、最初に保険会社へ相談してください。

一方、貨物保険は第三者への法律上の損害賠償責任を包括的に補償する保険ではありません。危険物が流出して他人の財物、土地、河川、港湾設備、漁業などへ損害を与えた場合、貨物損害とは別に賠償責任が問題になります。

また、納期遅延による逸失利益、生産停止、違約金、行政罰、制裁金、信用低下などは、一般的な貨物保険で自動的に補償されるとは考えないでください。運送人の責任限度額も、貨物価格全額とは限りません。保険と運送人賠償を同じものとして扱わないことが重要です。

保険設計では、「自社貨物の損害」「取片付け・廃棄等の付随費用」「第三者賠償」「環境浄化」「事業中断」に分けてチェックします。一枚の保険証券にすべて記載されているとは限らず、複数の保険や特約の組合せになることがあります。

流出時の処理費と環境汚染は別枠で考える

危険物の流出事故では、費用を三つに分けます。第一は、損傷した自社貨物や包装材の回収・廃棄費用です。第二は、流出拡大を防ぐための緊急措置、汚染物質の回収、浄化、モニタリングなどの費用です。第三は、第三者の身体・財物・営業・漁業等に対する損害賠償です。

貨物保険の残存物取片付け費用や廃棄費用は、保険対象貨物の損害に付随する範囲を補償するものです。土壌や水域の浄化、第三者賠償まで当然に含むとは限りません。環境汚染の補償は、賠償責任保険や汚染損害に関する特約など、別の補償を確認する必要があります。

一般の賠償責任保険では、汚染物質の排出・漏出を原則免責としつつ、突発的な事故によって不測かつ急激に発生し、所定期間内に発見・通知されたものを対象とする設計があります。さらに、汚染浄化費用や自然環境の回復費用を広げる特約もあります。契約ごとの差が大きいため、約款と特約を確認してください。

輸送中の事故については、施設からの流出を対象にした環境保険だけでは範囲外になる可能性があります。自社施設、委託倉庫、車両輸送、港湾保管、船上、到着地のどこで事故が起きるかを分け、地理的範囲と保険期間を確認します。

実務家としては、危険物の貨物保険を手配するときに「流出時の回収、廃棄、浄化、第三者賠償は、どの証券のどの条項で補償されるか」と書面で確認することを勧めます。「流出費用も大丈夫ですか」という一問だけでは、貨物残存物の廃棄と環境浄化が混同されます。

保険料と引受条件を左右する要素

危険物だから必ず一律に高い料率になる、と断定することはできません。しかし、危険性、事故時の損害拡大性、引受限度額が評価されるため、通常貨物より個別審査が増え、条件が厳しくなる可能性はあります。

保険料率は、保険条件、貨物の種類・性質、輸送区間、輸送方法、治安状況などを考慮して決められます。危険物では、数量、濃度、温度、包装、積替え回数、保管期間、輸送実績、事故歴も説明できるようにしておくべきです。

同じ物質でも、少量の適合包装を定期的に安定航路で輸送する場合と、タンク単位で高リスク地域を通過する場合では評価が異なります。廃棄物、返品、損傷品、試験品は、通常の新品販売貨物とは別に扱われる可能性があります。

保険料だけを下げるために免責金額を大きくすると、小規模な漏えいや荷造り直しが事実上自己負担になります。保険金額、免責金額、事故一回・期間中の限度額、費用特約の限度額を並べて比較してください。

継続取引では、危険物リスト、年間輸送額、最大一輸送額、主要航路、容器仕様、事故実績を整理し、包括契約で条件を安定させるのが実務的です。新しい危険物や新航路を追加したときは、自動的に既存条件へ入ると決めつけず、事前通知の対象か確認します。

インコタームズと保険手配者を確認する

保険を誰が手配するかは、危険物かどうかだけで決まりません。売買契約とインコタームズに基づき、売手と買手の危険負担、費用負担、保険手配義務を確認します。CIFやCIPでは売手に保険手配義務がありますが、FOB、CFR、FCAなどでは買手側の手配になることが一般的です。

ただし、インコタームズは保険の補償内容を自動的に決めるものではありません。契約で求める保険条件、保険金額、通貨、保険証券の提出方法、付保範囲を明記します。危険物の場合は、当該貨物が保険会社へ適切に告知されていることも確認します。

契約書に「海上保険は個別契約による」とだけ書かれていると、出荷時に手配者が分からなくなることがあります。ある会社では、注文書へ貿易条件、保険付保、輸送費負担区分などを記載する運用を置いています。危険負担と保険手配を一つの出荷単位で明確にする考え方は有効です。

売手と買手がそれぞれ保険を掛ける重複保険も避けるべきですが、双方が「相手が掛ける」と思い込む無保険の方が深刻です。出荷指示書へ保険手配者、証券番号または包括契約番号、補償開始地点、補償終了地点を記録してください。

フォワーダーが保険申込を代行する場合でも、貨物情報を正しく提供する責任は荷主側に残ります。フォワーダーの貨物賠償責任保険と、荷主の貨物保険も別物です。運送人に責任がない事故に備えるためにも、荷主自身の貨物保険を確認します。

危険物輸送で推奨する保険手配フロー

第一に、貨物を特定します。製品名だけでなく、正式輸送品名、国連番号、クラス、副次危険性、容器等級、SDS、数量、状態、温度、包装を整理します。新品、返品品、廃棄物、損傷品の区分も明確にします。

第二に、輸送経路を分解します。出荷地倉庫、国内陸送、港・空港保管、国際輸送、積替え、到着国陸送、最終倉庫までを並べます。貨物保険の開始・終了地点と、戦争危険等の期間差を確認します。

第三に、損害シナリオを分けます。貨物の滅失・損傷、残存物廃棄、漏えい回収、環境浄化、第三者賠償、事業中断、行政対応を一覧化します。それぞれをどの保険・特約でカバーするか割り当てます。

第四に、保険会社または代理店へ事前照会します。危険物情報、年間輸送額、最大一輸送額、航路、運送人、包装仕様、事故歴を提示し、引受可否、免責、限度額、除外、追加特約を確認します。

第五に、注文書・出荷指示へ保険情報を記録します。インコタームズ、保険手配者、補償条件、保険金額、証券・包括契約番号、証明書発行先を明確にします。貨物や航路を変更した場合は、保険会社への通知要否を確認します。

第六に、事故対応手順を整備します。24時間連絡先、現地クレームエージェント、サーベイヤー、運送人への通知先、証拠保全方法、応急費用の事前承認ルールを一枚にまとめます。保険は契約時だけでなく、事故時に使える運用まで作って完成です。

事故発生時に最初に行うこと

危険物事故では、人命と安全確保を最優先します。漏えい、発熱、発煙、異臭などがある場合、荷主の事務担当者が現場へ開梱や移動を指示してはいけません。運送人、施設管理者、危険物担当者、必要な当局の指示に従います。

安全対応と並行して、保険会社または代理店へ遅滞なく事故通知します。応急処置、回収、廃棄、再梱包、急送などの費用を負担する前に、保険会社の承認が必要か確認してください。緊急上やむを得ない場合も、実施理由と記録を残します。

貨物の状態、梱包、コンテナ、封印、車両、周囲の状況を写真・動画で記録します。受渡書類やデバンニングレポートへ損傷状態を具体的に記載し、運送人や荷役業者の確認・署名を得ます。損害拡大のおそれがない限り、サーベイ前に廃棄や修理を進めないことが基本です。

運送人へのNotice of Claimも期限内に提出します。保険会社へ連絡しただけでは、運送人に対する求償権は保全されません。B/L、AWB、運送約款などの期限を確認します。

ある会社では、保険求償対象の損害を確認した場合、保険証券で補償範囲を確認し、保険会社への事故通知、証拠保全、運送人への求償権保全、必要に応じたサーベイを並行して行う運用を定めています。この流れは危険物事故でも有効です。

実務で多い間違い

危険物は保険に入れないと思い込む

誤りです。通常は個別情報を告知し、引受条件を確認します。初回出荷や新物質は早めに照会してください。

貨物保険で流出事故の全費用が出る

誤りです。貨物の損害・残存物処理と、環境浄化・第三者賠償は分けて確認します。

運送会社が保険へ加入しているので荷主保険は不要

運送人の賠償責任には成立要件と限度があります。運送人に責任がない事故もあるため、荷主の貨物保険を別に確認します。

包括契約なら危険物も自動的に対象

契約の対象貨物、除外、個別申告条件によります。新製品、廃棄物、損傷品、新航路は事前に通知します。

事故後に処理してから保険会社へ請求する

費用の支出前承認やサーベイが必要な場合があります。安全確保後、直ちに事故通知してください。

インコタームズだけ見れば補償は十分

インコタームズは危険・費用・保険手配義務を整理しますが、具体的な補償範囲までは確定しません。約款、特約、保険金額、免責を確認します。

実務家としての推奨は、危険物輸送では「貨物保険を付けるか」だけで終わらせず、「貨物損害」「残存物処理」「環境浄化」「第三者賠償」の四項目を別々に確認することです。流出が想定される貨物は、貨物保険だけで完結させないでください。

参照・参考情報

マンガで学ぶ危険物輸送と危険品、貿易の基礎知識

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