第71話:化学品のHSコードはどう決める?国連番号との違いと第28類〜第38類の分類基準
化学品の国連番号がSDSで確認できても、HSコードが自動的に決まるわけではありません。国連番号は危険物輸送の識別に使われ、HSコードは税関で品目を分類するために使われます。目的も分類体系も異なります。
化学品のHSコードでは、成分だけでなく、単一物質か混合物か、化学構造、用途、製造工程、濃度、包装形態、販売状態まで確認します。特に第29類と第38類の境界は、実務で迷いやすいポイントです。
本記事は2026年8月時点の日本税関の実行関税率表、関税率表解説、分類例規、事前教示制度を基礎にしています。初学者が候補を絞り、通関業者や税関へ正確に照会できるところまでを目標にします。
目次
国連番号が分かってもHSコードが決まらない理由
国連番号は、危険物輸送で物質または物品を識別する番号です。SDS第14項には、国連番号、正式輸送品名、危険物クラス、容器等級などが記載されることがあります。これらは、航空、海上、陸上で安全に輸送するための情報です。
一方のHSコードは、輸出入する物品を関税率表に沿って分類する番号です。日本の輸入申告では、世界共通の6桁に国内統計細分を加えた番号を使います。関税率、輸入規制、貿易統計、EPAの原産地規則などにも関係します。
同じ国連番号に、配合や用途が異なる複数の商品が含まれることがあります。反対に、一つの化学品でも、純品、溶液、調製品、小売用製品ではHSコードが変わることがあります。国連番号はHS分類の参考情報にはなりますが、対応表のように一対一で置き換えることはできません。
例えば、引火性液体として同じ輸送分類になる製品でも、単一の有機化合物、塗料、洗浄剤、香料調製品では、それぞれ第29類、第32類、第34類、第33類または第38類を検討します。危険性が似ていても、税関分類では物品の本質と項の記載が優先されます。
社内のSDS例でも、国連番号と輸送クラスは確認できますが、HSコードは記載されていないものがあります。したがって、SDS第14項だけで分類を終えず、第1項、第3項、第9項、第14項、第15項に加え、配合表、仕様書、製造工程、用途説明を集める必要があります。
最初に押さえるHS分類の公式ルール
HS分類は、商品名のイメージや検索結果だけで決めません。最初に関税率表の解釈に関する通則を使います。通則1では、部、類、節の表題は参照上の便宜であり、物品の所属は項の規定と関係する部注・類注に従うことが示されています。
つまり「洗浄剤だから第34類」「化学品だから第38類」と表題だけで決める方法は不十分です。候補となる4桁の項の文言を読み、除外規定を含む第6部注、類注、号注を確認します。その後、必要な場合に通則2以降を検討します。
混合物が二つ以上の項に属するように見える場合でも、すぐに主要成分の重量比だけで決めてはいけません。まず、特定の調製品を明示する項がないかを確認します。項や注で分類できない場合に、より特殊な記載、重要な特性、数字上最後の項など、通則3の順序を検討します。
6桁の号を決める段階では通則6を使い、同一水準にある号だけを比較します。類を決めるとき、項を決めるとき、号を決めるときの検討を混ぜないことが重要です。初学者は、最初から9桁の候補を検索するより、類、4桁項、6桁号、国内細分の順で絞ると整理しやすくなります。
公式な確認資料は、最新の実行関税率表、関税率表解説、分類例規、公開された事前教示回答です。2026年8月時点では、日本税関が2026年8月8日版の実行関税率表を掲載しています。古い一覧表や過去のインボイスを使う場合は、現在の品目表と改正内容を再確認します。
化学品の分類に必要な情報
化学品の分類では、商品名よりも中身と提示状態が重要です。まず、成分名、CAS番号、含有率を確認します。営業秘密で全配合を開示できない場合でも、分類候補を判断できるよう、主成分、副成分、機能成分、溶媒、添加剤の役割と含有率帯を整理します。
次に、単一の化学的に明定された化合物か、複数成分の混合物・調製品かを確認します。単一物質でも、異性体混合、反応生成物、石油留分、ポリマー、安定剤入り、溶液などは判断が分かれます。「濃度99%だから単一物質」とは限りません。
第29類では、分子式だけでなく構造式と官能基が重要です。アルコール、エーテル、ケトン、カルボン酸、エステル、アミン、アミド、複素環式化合物など、どの構造を持つかで項が変わります。複数の官能基を持つ化合物には、第29類の類注による優先順位があります。
用途も必要ですが、用途だけで決めるわけではありません。医療用、肥料用、着色用、香粧用、洗浄用、潤滑用、接着用、酵素用、農薬用など、用途別の項が明示されているかを確認します。実際の販売形態、ラベル表示、顧客への説明、使用方法が用途の客観的根拠になります。
製造工程は、単なる混合、化学反応、蒸留、精製、希釈、分散、乳化、重合、発酵などを記録します。輸入時の荷姿も確認し、バルク、ドラム、試薬、小売容器、一定量にした投薬形態、二液を同梱したセットなどを区別します。
| 確認項目 | 具体的に集める情報 | 主な資料 |
|---|---|---|
| 成分 | 化学名、CAS番号、含有率、添加剤の役割 | SDS、配合表、分析表 |
| 構造 | 分子式、構造式、官能基、異性体 | 仕様書、技術資料 |
| 工程 | 反応、混合、希釈、精製、分散、発酵 | 製造工程図 |
| 用途 | 主用途、使用方法、機能、販売先 | カタログ、ラベル、用途説明書 |
| 提示状態 | 包装、容量、小売用か、セットか | 写真、梱包仕様、インボイス |
第28類〜第38類の見分け方
第28類は無機化学品が中心です。分離された化学元素や化学的に明定された無機化合物を検討します。ただし、貴金属、希土類、放射性元素、同位元素などは特別な規定があります。単純に「炭素を含まないから第28類」と決めず、類注と個別項を確認します。
第29類は有機化学品です。基本は化学的に明定された単一の有機化合物で、構造と官能基に沿って分類します。ただし、すべての炭素化合物が第29類になるわけではありません。第28類に明示される炭素化合物、第30類の医薬品、用途別調製品、ポリマーなどを除外します。
第30類は医療用品です。治療または予防に使用する有効成分を含むだけで自動的に第30類になるわけではありません。項の要件、混合の有無、投薬量、投与形態、小売包装、表示された用途を確認します。医薬品原料のバルク単一化合物は第29類に残る場合があります。
第31類は肥料です。窒素質、りん酸質、カリ肥料や、複数の肥料成分を含む物品などを扱います。農業で使う化学品すべてが肥料ではありません。植物成長調整剤、農薬、土壌改良用調製品などは、第38類その他の類を検討することがあります。
第32類は染料、顔料、着色料、ペイント、ワニス、パテ、マスチック、インキなどです。色が付いているだけで第32類になるわけではありません。着色機能、媒体への分散状態、塗膜形成、用途、調製状態を確認します。
第33類は精油、レジノイド、調製香料、香水、化粧品類です。香りがある化学品すべてではありません。香料原料、精油、香粧品としての用途、小売包装を確認します。単一の芳香族化合物が工業原料として輸入される場合は、第29類を検討することがあります。
第34類はせっけん、有機界面活性剤、洗剤、調製潤滑剤、人造ろう、磨き剤などです。洗浄剤では界面活性作用、用途、配合、包装状態を確認します。単一の有機界面活性剤と、洗浄用に調製された製品では細分が異なることがあります。
第35類は、たんぱく系物質、変性でん粉、膠着剤、酵素などです。接着剤は成分だけでなく、小売用包装や正味重量など項の条件を確認します。樹脂そのものと、接着用に調製された製品を混同しないことが重要です。
第38類は各種の化学工業生産品です。農薬、反応開始剤、触媒調製品、不凍液、試薬、鋳物用調製品、化学工業の残留物、他に特定されない調製品など、多様な項があります。「分からない化学品は3824」とする万能の残余類ではありません。先に他の項に固有の記載がないかを確認します。
| 類 | 主な判断軸 | よくある誤解 |
|---|---|---|
| 28 | 単一の無機元素・化合物、個別の例外 | 無機成分を含めば必ず28類 |
| 29 | 単一有機化合物、構造、官能基 | 炭素を含めばすべて29類 |
| 30 | 治療・予防用途、投薬形態、包装 | 医薬成分を含めば30類 |
| 31 | 肥料成分と項の限定列挙 | 農業用ならすべて31類 |
| 32 | 着色、塗装、インキ、マスチック | 色付き化学品はすべて32類 |
| 33 | 精油、香料、化粧・香粧用途 | 香りがあれば33類 |
| 34 | 界面活性、洗浄、潤滑、ろう、磨き | 油を含めば潤滑剤 |
| 35 | たんぱく、変性でん粉、接着剤、酵素 | 粘着性があれば35類 |
| 38 | 個別項と他類に該当しない調製品 | 迷ったら3824 |
第28・29類と第38類の境界
実務で最も多い迷いは、単一化学品として第28類または第29類に入るのか、混合・調製された製品として第30類〜第38類へ移るのかという点です。判断の出発点は、化学的に明定された単一化合物かどうかです。
製造上避けられない不純物を含むことと、特定の機能を持たせるため意図的に別成分を配合することは同じではありません。保存や輸送に必要な安定剤、一定の溶液など、類注で許容される添加があります。一方、洗浄性、接着性、防錆性、着色性などを付与する調製は、用途別の類へ移る可能性があります。
水溶液だから必ず混合物として第38類になるわけではありません。逆に、主成分が99%でも、残り1%が製品に固有の機能を与える意図的な配合であれば、単一化合物として扱えない可能性があります。割合だけでなく、添加理由と商品としての機能を確認します。
第38類を検討するときは、まず第3808項の農薬・消毒剤、第3811項の鉱物油用添加剤、第3812項のゴム・プラスチック用調製添加剤、第3814項の有機配合溶剤・除去剤、第3820項の不凍液、第3822項の試薬など、具体的な項を確認します。最後に第3824項などの残余的な項を検討します。
製品名に「溶剤」「添加剤」「処理剤」とあっても、分類は一つではありません。例えば単一のケトン系溶剤は第29類の可能性がありますが、複数溶剤を目的に合わせて配合した製品は第3814項などを検討します。ゴム用薬品も、単一化合物か調製添加剤かで候補が変わります。
同一製品でも、輸入時点の状態が変われば分類を再確認します。原料バルクから小売製品へ変更した場合、二液セットになった場合、濃度や添加剤が変わった場合、用途表示を変えた場合は、過去のHSコードをそのまま流用しないことが安全です。
実務で使える分類手順
第一段階では、何を輸入するのかを一文で定義します。「化学品」「樹脂用添加剤」だけでは不十分です。「主成分、配合状態、用途、包装」を含めて、税関担当者が同じ物品を想像できる説明にします。
第二段階では、SDSと補足資料から、成分、CAS番号、含有率、構造、製法、用途、荷姿を一覧にします。SDSに営業秘密の記載がある場合は、メーカーへ分類用の成分証明や非開示資料の税関提出可否を相談します。
第三段階では、第6部注と候補類の類注を読みます。放射性物質、小売用包装、二液セットなど、部注によって優先される項がないか確認します。候補類から除外される物品も先に確認します。
第四段階では、4桁の項を比較します。項の文言、関税率表解説、分類例規、公開事前教示を読み、類似事例との差を記録します。同じ商品名だけでなく、成分・用途・包装が近い事例を探します。
第五段階では、通則6により6桁号を決め、日本の輸入では国内細分まで確認します。輸出先国で輸入申告に使う場合は、相手国の国内細分と分類判断を確認します。世界共通なのは原則として上6桁までであり、相手国の追加桁を日本の9桁から推測しません。
第六段階では、判断根拠を記録します。候補コード、採用理由、除外した候補、参照した版、資料、確認者、確認日を残します。判断が難しい、税率差が大きい、量が多い、継続輸入する、新製品で前例がない場合は、文書による事前教示を検討します。
- 物品を「成分+状態+用途+包装」で定義する
- SDSだけで不足する情報を技術部門・メーカーから集める
- 通則1、部注、類注、項の順で確認する
- 解説・分類例規・事前教示例で候補を比較する
- 6桁号と国内細分を同一水準で比較する
- 根拠と版を品番または製品単位で保存する
間違えやすいポイント
国連番号からHSコードを逆引きして確定する
国連番号は危険物輸送の番号です。同じ国連番号でも、成分や用途、調製状態が異なる商品があります。逆引き結果は候補探索に限定し、関税率表の規定で確定します。
CAS番号だけで決める
CAS番号は物質の特定に有効ですが、製品が混合物の場合、主成分のCAS番号だけでは足りません。濃度、添加剤、機能、包装、用途により、単一物質とは異なる項に分類されることがあります。
SDS第14項または第15項だけを見る
SDSは輸送や法令情報を確認する重要資料ですが、関税分類の決定書ではありません。第3項の組成、第9項の物性、第1項の用途に加え、SDSにない構造式、製造工程、商品カタログを確認します。
商品名・インボイス品名だけで分類する
「添加剤」「オイル」「クリーナー」などの名称は範囲が広く、同一名称でも中身が異なります。商品名が同じでも品番ごとに材質が異なる場合があります。ある会社では、同一品名であっても材質が異なる可能性があるため、製品番号単位のリスト運用が確実と整理されていました。
第38類を万能の受け皿にする
第38類には具体的な化学工業生産品が多数ありますが、他類に固有の記載がある物品より優先するわけではありません。第28・29類、第30〜35類、第39類などの候補を除外し、38類内でも具体的な項を先に確認します。
過去の通関実績を正解とみなす
前回通関できたことは有力な参考ですが、適正分類の保証ではありません。仕様変更、配合変更、用途変更、荷姿変更、品目表改正があれば再確認します。税率が同じでも、誤ったHSコードを継続しないことが重要です。
危険物輸送情報とのつなぎ方
危険物輸送とHS分類は別制度ですが、元になる製品情報は共通します。化学名、成分、濃度、物性、用途、荷姿が正確でなければ、どちらも正しく判断できません。情報収集を二重化せず、共通の商品マスタから用途別に展開する考え方が有効です。
ただし、国連番号、正式輸送品名、危険物クラス、容器等級をHSコード欄へ転記してはいけません。危険物輸送ではIATA DGRやIMDGコードなどを確認し、HS分類では関税率表と注を確認します。最終確認者と参照資料を分けます。
危険物でない化学品にもHSコードは必要です。また、危険物であることがHS第36類の火薬類に直結するわけではありません。引火性液体や腐食性物質の多くは、第28類、第29類、第32類、第34類、第38類などに分類されます。
輸入通関では、HSコードに応じて関税だけでなく、他法令の確認につながることがあります。ただし、税関の品目表に示される他法令情報は確認の入口です。危険物輸送、消防法、毒劇法、化審法、労働安全衛生法などの適否は、それぞれの法令と主管官庁の情報で確認します。
社内実務では、技術部門が成分と構造、環境・安全部門がSDSと化学法令、貿易部門がHS分類、物流部門が危険物輸送条件を確認する分担が考えられます。部門ごとの番号を別々に管理するだけでなく、製品番号、版、成分変更日をキーに連携します。
変更管理も重要です。配合、仕入先、製造工程、濃度、用途、包装が変わったときは、SDS改訂だけで終わらせず、HSコードと危険物輸送分類の両方へ再確認フラグを立てます。変更前後の根拠を保存すれば、税関照会や輸送会社からの質問へ迅速に回答できます。
判断が難しいときの事前教示
候補が複数残る場合は、日本税関の事前教示制度を利用できます。輸入予定貨物について、関税率表上の所属区分や関税率などを輸入前に照会し、回答を受ける制度です。継続輸入、高額品、税率差がある品、分類変更の影響が大きい品に有効です。
より確実性を求める場合は、原則として文書による照会を選びます。文書回答に記載された所属区分、関税率、統計品目番号は、一定の条件の下で輸入申告審査の際に尊重されます。Eメールや口頭の回答は、原則として文書回答と同じ取扱いではありません。
化学品の照会では、商品名とSDSだけでは回答に不足することがあります。税関は、製法、性状、成分割合、構造、機能、用途、包装などの情報を求めています。構造式、成分表、工程図、カタログ、現物写真、使用方法を準備します。
公開された事前教示回答は、類似品を探す資料として有用です。一般的品名、税番、貨物概要、分類理由が確認できます。ただし、似た名称でも成分割合や用途が違えば同じ結論になるとは限りません。類似点と相違点を明示して参考にします。
事前教示回答を得た後も、現品と照会内容が一致していることが前提です。配合、製法、用途、包装が変わった場合や、法令・品目表が改正された場合は、回答の適用可否を再確認します。社内の商品マスタには、回答番号、有効期間、対象仕様を記録します。
化学品のHS分類のコツは、国連番号から答えを探すことではありません。「単一か混合か」「構造は何か」「何に使うか」「どの状態で輸入するか」を整理し、通則、注、項、解説の順で根拠をつなぐことです。
参照・参考情報
- 税関「輸入統計品目表(実行関税率表)」
- 税関「実行関税率表(2026年1月1日版)」
- 税関「関税率表解説・分類例規」
- 税関「関税率表の解釈に関する通則」
- 税関「関税率表の解釈に関する通則 解説」
- 税関「関税率表第29類の概要」
- 税関「品目分類の事前教示制度について」
- 税関「事前教示回答(品目分類)」
- 税関「事前教示回答事例 キーワード検索」
- 税関「Eメールを利用した事前教示制度」
- 日本通関業連合会「関税分類の要諦 部:化学工業生産品 2026年」
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