第61話:航空危険物のPAXとCAOの違いとは?旅客機ベリーと貨物専用機の搭載条件・費用・ブッキングを解説
航空貨物は、貨物専用機だけで運ばれているわけではありません。国際線旅客機の床下貨物室、いわゆるベリーも重要な輸送力です。一方、危険物は旅客機に載せられるもの、貨物専用機に限り載せられるもの、航空輸送自体が禁止されるものに分かれます。
PAXとCAOは、料金サービスの名称ではありません。危険物表や包装基準において、旅客機で許容されるか、貨物専用機に限られるかを示す重要な区分です。本記事では、初学者が混同しやすい点と、実務でフォワーダーへ確認すべき項目を整理します。
目次
航空貨物のどのくらいが旅客機のベリーで運ばれるのか
「航空貨物の大半は旅客機のベリーで運ばれる」という説明は、何を分母にするかで結論が変わります。貨物の重量、輸送距離を掛けた貨物トンキロ、提供可能な貨物スペース、国際貨物だけか国内貨物を含むかで数字が異なるためです。したがって、単一の割合を恒久的な常識として使うのは適切ではありません。
IATAが公表した2019年の国際航空貨物の供給力では、旅客機ベリーが59%、貨物専用機が41%でした。コロナ禍で旅客便が激減した2020年以降は貨物専用機の比率が高まり、2022年の国際貨物供給力は貨物専用機55%、旅客機ベリー41%、旅客機を貨物便として使用するプレイター4%でした。つまり、平時にはベリーが非常に大きな役割を持つ一方、市況や旅客便の運航状況によって構成比が大きく変動します。
Boeingの2024年から2043年の世界航空貨物予測では、貨物専用機が世界の航空貨物輸送量の半分を超えて担う状態が示されています。これは「ベリーが重要ではない」という意味ではありません。重量物、大型貨物、危険物、夜間エクスプレス網などでは貨物専用機の役割が大きく、旅客ネットワークの高頻度便や幅広い就航空港ではベリーの利便性が高いという役割分担があります。
実務では「世界全体の割合」より、対象路線の運航構成を確認するほうが重要です。同じ空港間でも、曜日によって旅客便と貨物便が異なることがあります。経由地で別機材へ積み替える場合もあります。フォワーダーには、予定便が旅客機か貨物専用機かだけでなく、全区間の機材、経由地、積替え、代替便まで確認します。
PAXとCAOの基本的な違い
PAXはPassenger Aircraft、つまり旅客を乗せる旅客機を意味します。日本の告示では、旅客機は「現に旅客が搭乗している航空機」と定義されています。一般にベリー輸送とは、この旅客機の客室床下にある貨物室へ貨物を搭載する方法です。旅客の手荷物と商業貨物は、同じ機体の貨物室に載ることがあります。
CAOはCargo Aircraft Onlyの略で、旅客機には搭載できず、貨物専用機に限って輸送できる危険物または包装条件を示します。対象包装物には、規則で指定された「Cargo Aircraft Only」の取扱いラベルが必要です。ただし、貨物専用機なら何でも自由に積めるわけではありません。包装基準、数量制限、表示、ラベル、書類、隔離、積載位置、接近可能性などの条件は引き続き適用されます。
| 項目 | PAX | CAO |
|---|---|---|
| 航空機 | 旅客が搭乗する航空機 | 貨物専用機 |
| 危険物の範囲 | 旅客機で許容される品目・数量 | 旅客機不可だが貨物専用機で許容される品目・数量を含む |
| 数量制限 | 一般にCAOより厳しい | 品目によりPAXより大きい許容正味量が設定される |
| 表示 | 該当する危険性ラベル等 | 該当ラベル等に加えCAOラベルが必要な場合がある |
| 受託 | 航空会社、路線、機材、国の差異を確認 | 貨物便の有無に加え、航空会社の受託条件を確認 |
危険物表には通常、旅客機・貨物専用機で使える包装基準と一包装当たりの最大正味量、貨物専用機のみで使える包装基準と最大正味量が別々に示されます。まずUN番号と正式輸送品名を特定し、該当行のPAX欄とCAO欄を読むのが基本です。航空会社独自の運航者差異や国別差異が上乗せされるため、表だけで受託確定とはなりません。
同じ危険物でも旅客機と貨物専用機で条件が変わる理由
旅客機には多数の旅客が搭乗し、床下貨物室への飛行中の接近も限定されます。そのため、危険物の種類、危険性、数量、包装に対して厳しい制限が設けられています。貨物専用機は旅客を乗せませんが、乗務員と機体の安全を守る必要は同じです。CAOは危険性が消える制度ではなく、貨物専用機を前提に追加条件の下で許容する区分です。
同じUN番号でも、PAX用の包装基準とCAO用の包装基準で、一包装当たりの最大正味量が異なる場合があります。PAX上限を超えていても、CAO上限内で適切に包装すれば貨物専用機で輸送できるケースがあります。一方で、物質や状態によっては貨物専用機でも通常輸送できず、特別承認が必要、または航空輸送禁止となる場合があります。
「CAOのほうが条件が緩い」という表現は、数量面だけを見れば当てはまる場面があります。しかし、実務上は「緩和」より「別の条件で許容」と理解するほうが安全です。CAO貨物には専用の表示や取扱いが必要となり、積載位置や他の貨物との隔離にも注意が必要です。航空会社が規則上輸送可能な貨物を商業上または安全方針上受託しないこともあります。
リチウム電池は典型的な注意例です。電池単体、機器と同梱、機器に組み込みでUN番号と包装基準が変わります。充電率、ワット時定格量、電池の状態、数量、試験適合性でも条件が変わります。「リチウム電池だから貨物機」「パソコンだから旅客機でも大丈夫」のような商品名だけの判断は避け、該当する包装基準を確認します。
火薬類、毒性ガス、感染性物質、放射性物質なども、区分、適合性グループ、数量、特別規定によって結論が異なります。SDS第14項は重要な入口ですが、SDSの記載だけでPAX可否やCAO可否が確定しない場合があります。最新の危険物規則書、製造者情報、試験結果、所管当局や航空会社の条件を合わせて確認します。
CAOは高いのか、ブッキングしにくいのか
CAO貨物は、旅客便で運べないため利用できる便が貨物専用機に限定されます。対象路線に貨物便が少ない場合、出発曜日、経由空港、到着空港、接続便の選択肢が狭くなります。直行便がなく、貨物ハブを経由することもあります。このため、旅客機ベリーを利用できる貨物よりブッキングの自由度が低くなる傾向があります。
ただし、「CAOは必ず高い」「必ず予約しにくい」と断定はできません。貨物便が多い主要ハブ間、貨物専用航空会社の定期路線、荷量の多い市場では選択肢が確保されることがあります。反対に、旅客便で輸送可能なPAX貨物でも、機材が小さい、貨物室ドアに入らない、危険品受託枠が埋まっている、経由地で受託できないなどの理由で予約できないことがあります。
価格が上がりやすい要因は、貨物便への限定だけではありません。危険品取扱料、書類審査料、危険品受託料、専用保管、隔離、再検査、訂正、専門梱包、空港間の横持ち、長い保管期間などが加算されることがあります。さらに、直行便を使えず経由便になると、輸送時間、取扱回数、破損や積み残しのリスクも増えます。
運賃は実重量と容積重量の大きい方を基礎に計算されるのが一般的です。危険物包装を強化すると外寸が大きくなり、課金重量が増えることがあります。オーバーパック、パレット化、積み重ね不可、向き指定なども積載効率へ影響します。したがって、通常品運賃との差額を見るときは、基本運賃だけでなく、課金重量、危険品追加費用、国内外取扱費、保管費を含む総額で比較します。
社内実務でも、機材が小さい路線ではパレット貨物を受け付けず、箱単位へ荷姿を変更しなければ予約できない事例があります。また、検査や荷姿変更によって一日単位のリードタイムが追加されることがあります。危険物か否かにかかわらず、航空機の機種と貨物室寸法は納期へ直結するため、早い段階で最終荷姿を提示することが重要です。
見積もり・ブッキング時に確認すべき実務ポイント
見積もりを依頼するときは、「危険物です」「CAOです」だけでは情報不足です。製品名、UN番号、正式輸送品名、クラス、副次危険性、容器等級、包装基準、特別規定、正味量、総重量、梱包数、外寸、オーバーパックの有無を整理します。リチウム電池では、構成、Wh、リチウム含有量、充電率、UN38.3試験適合性、損傷・リコールの有無も必要です。
次に、見積もりの前提となる航空機区分を明確にします。PAX可、CAOのみ、航空輸送禁止のいずれかを規則書で確認します。PAX可であっても、フォワーダーには旅客便と貨物便の両案を依頼してよいでしょう。価格、便数、所要日数、積替え回数、受託締切、代替便を比較できます。
- 全区間を通じてPAXまたはCAOの条件に適合しているか
- 経由地で積み替える航空機も条件に適合しているか
- 航空会社と経由国の差異に追加制限がないか
- 危険品の事前予約、スペース承認、書類審査は何日前までか
- 貨物室ドア寸法、搭載可能高さ、単体重量に収まるか
- 積み重ね不可、天地無用、温度管理などの条件を受けられるか
- 危険品料金の課金単位がAWB、貨物、一包装、パレットのどれか
- 積み残し時に自動的に次便へ振り替えられるか、再承認が必要か
ブッキング確定後も、便名だけで終了してはいけません。航空会社や機材の変更により、当初の受託前提が変わる場合があります。特にCAO貨物が旅客便へ振り替えられることは認められません。フォワーダーと航空会社側で危険物情報が正しく登録され、貨物専用機として確定していることを確認します。
航空運送状、危険物申告書、包装物、ラベルの情報は一致させます。訂正が発生すると、再確認費用や搭載延期につながることがあります。予約段階の暫定重量と搬入時の実測値が大きく異なる場合も、スペース再調整が必要です。最終荷姿確定後に重量、外寸、包装数を再確認し、変更履歴を残します。
間違えやすいポイントと社内チェックリスト
最も多い誤解は、CAOを貨物専用機そのものの一般名称としてだけ捉えることです。通常貨物も貨物専用機で運べますが、危険物規則上のCAOは「旅客機には載せられず、貨物専用機の条件でのみ許容される」という意味を持ちます。見積書にFreighterと書かれていても、危険物のCAO条件が自動的に満たされるわけではありません。
二つ目は、貨物専用機なら危険物規則が緩くなるという誤解です。貨物専用機でも危険物分類、適合包装、表示、ラベル、書類、数量制限、隔離、受託確認が必要です。航空輸送禁止品は貨物専用機にも載せられません。例外承認が存在する場合も、荷送人やフォワーダーの判断だけでは使えません。
三つ目は、最初の便だけ確認することです。経由便では、第一便が貨物専用機でも第二便が旅客機となる可能性があります。CAO貨物は全航空区間で貨物専用機が必要です。代替空港から目的地までの陸送に、危険物の国内輸送規制が適用される場合もあります。航空部分だけでなく、集荷から納入までを一つの輸送として確認します。
四つ目は、SDS第14項にCAOと書かれていないためPAXで送れると判断することです。SDSは製品の安全情報資料であり、航空会社の受託可否を保証する文書ではありません。SDSの分類が古い場合や、製品の状態・濃度・荷姿が実物と一致しない場合もあります。最新版SDSを入口とし、規則書と製品情報で再確認します。
出荷前チェックリスト
- UN番号、正式輸送品名、クラス、副次危険性、容器等級を確認した
- 最新規則のPAX欄、CAO欄、包装基準、最大正味量を確認した
- 一包装当たりの正味量と包装数を確定した
- 貨物がPAX可、CAOのみ、航空禁止のどれかを記録した
- 国別差異、運航者差異、フォワーダー条件を確認した
- 全区間の航空機区分と経由地の受託可否を確認した
- 最終外寸、総重量、課金重量、積み重ね条件を確認した
- 危険物申告書、AWB、包装物、ラベルの内容を照合した
- 欠航、積み残し、機材変更時の代替手順を確認した
結論として、PAXとCAOの違いは「旅客便と貨物便の価格差」ではありません。危険物をどの航空機で、どの包装基準と数量条件により運べるかという安全上の区分です。CAOではPAXより大きな数量が許容される品目がありますが、受託便が限られ、追加費用や長い準備期間が生じることがあります。
初学者は、まずUN番号と正式輸送品名を確定し、PAX欄とCAO欄を並べて読む習慣を身につけてください。そのうえで全区間の機材、運航者差異、最終荷姿、危険品料金、代替便まで確認します。「貨物機なら送れる」ではなく、「この製品、この数量、この包装、この経路で受託確認済み」と説明できる状態が、実務上のゴールです。
参照・参考資料
- IATA Dangerous Goods Regulations(DGR)
- IATA Dangerous Goods Documentation
- IATA Frequently Asked Questions on Transportation of Dangerous Goods by Air
- IATA Uneven recovery trends in air cargo traffic and capacity
- ICAO Technical Instructions for the Safe Transport of Dangerous Goods by Air(Doc 9284)
- 国土交通省 航空機への危険物の持込みについて
- 国土交通省 航空機による爆発物等の輸送基準等を定める告示
- Boeing World Air Cargo Forecast 2024-2043
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