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第5話:SDS(安全データシート)とは?16項目の読み方・発行者・更新義務をやさしく解説

マンガで学ぶ危険物輸送と危険品、貿易の基礎知識:第5話

洗浄剤、塗料、接着剤、溶剤、試薬、潤滑油。製造や物流の現場では、数多くの化学品が使われています。これらを他社から仕入れたり、他社へ販売したりするとき、必ずといってよいほど登場するのが「SDS」です。しかし、「受け取ってファイルに綴じているだけ」「どこを見ればよいのか分からない」「誰が出すべきで、いつ更新するのか分からない」という現場も少なくありません。

SDSは、化学品の危険有害性や安全な取扱い方法を伝えるための、いわば化学品の「取扱説明書」であり「履歴書」です。危険物輸送においても、その荷物がどのクラスに該当するのかを判断する重要な情報源になります。本記事では、SDSとは何かという基本から、16項目それぞれの読み方、どんな製品に必要か、誰が発行し・いつ更新するのか、そして提供しなかった場合の罰則までを、網羅的に解説します。

SDSとは何か|MSDSとの違いと役割

SDS(Safety Data Sheet)は、日本語で「安全データシート」といいます。化学物質や、それを含む製品(化学品)を他の事業者に譲渡・提供する際に、その成分、危険有害性、取扱い上の注意、応急措置、保管方法、廃棄・輸送上の注意などを伝えるための文書です。化学品を扱う事業者にとって、その製品に何が含まれ、どんな危険有害性があり、どのような保護具や換気が必要かを把握するための「入口」となる資料です。

かつては「MSDS(Material Safety Data Sheet:化学物質等安全データシート)」と呼ばれていましたが、化学品の分類・表示に関する国際標準であるGHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)の国内導入に伴い、名称が「SDS」に統一されました。古いファイルに「MSDS」と書かれた書類が残っている場合、記載項目の名称や順序が現行のものと異なることがあるため、最新版への更新が必要です。

重要なのは、SDSは「ファイルに保管するだけ」の書類ではないということです。受け取った事業者は、その情報をリスクアセスメント、作業手順の作成、保護具の選定、局所排気装置の設計、保管管理、漏えい時の対応、廃棄方法の確認、そして輸送区分の判断につなげる必要があります。SDSは、化学品を安全に取り扱うための行動の起点となる、実務の中心的な参照文書なのです。

SDSの16項目|各章の内容と読み方

SDSは、GHSに基づき、16の項目を決められた順序で記載することが国際的に定められています。日本ではJIS Z 7253がこの記載要領を規定しており、項目名や順序を変更することは認められていません。世界共通のフォーマットであるため、どの製品のSDSでも同じ順序で情報を探せるのが大きな利点です。まずは16項目の全体像を押さえましょう。

項目 項目名 主な内容
1化学品及び会社情報製品名、提供者の名称・住所・連絡先
2危険有害性の要約GHS分類、絵表示、注意喚起語
3組成及び成分情報成分名、含有量、CAS番号
4応急措置吸入・皮膚・目・飲み込み時の処置
5火災時の措置適切な消火剤、使ってはならない消火剤
6漏出時の措置封じ込め、保護具、環境への流出防止
7取扱い及び保管上の注意取扱い時の対策、保管条件、混触禁止物質
8ばく露防止及び保護措置ばく露限界値、適切な保護具
9物理的及び化学的性質外観、引火点、沸点、蒸気圧、比重、pH
10安定性及び反応性避けるべき条件、危険な分解生成物
11有害性情報急性毒性、皮膚腐食性、発がん性など
12環境影響情報生態毒性、残留性、生体蓄積性
13廃棄上の注意安全な廃棄方法、容器の処理
14輸送上の注意国連番号、品名、クラス、容器等級
15適用法令該当する国内外の法規制
16その他の情報作成日・改訂日、版番号、参考文献

まず見るべき項目(1-3)

実務でSDSを開いたら、最初に確認すべきは第1項から第3項です。第1項「化学品及び会社情報」では、製品名がラベルと一致しているか、緊急連絡先が記載されているかを確認します。第2項「危険有害性の要約」は、そのSDSの中で最も重要な要約セクションです。GHS分類、絵表示(ピクトグラム)、注意喚起語が一覧化されています。注意喚起語は「危険」と「警告」の2種類しかなく、「危険」がより高い危険有害性を表しますが、「警告」だから安全という意味ではありません。第3項「組成及び成分情報」では、成分名、含有量、CAS番号を確認します。CAS番号は化学物質を一意に識別する国際的な登録番号で、商品名が違っても同じ物質かどうかを照合できます。

緊急時・取扱いに関わる項目(4-8)

第4項「応急措置」から第8項「ばく露防止及び保護措置」は、実際に化学品を扱う現場で直接役立つ情報です。第4項はばく露経路別の応急処置、第5項は適切な消火剤と使ってはならない消火剤、第6項は漏出時の対応、第7項は取扱い・保管の条件(混触させてはならない物質を含む)、第8項はばく露限界値と必要な保護具が記載されます。これらは作業手順書や保護具選定の直接の根拠になります。

物性・有害性・規制に関わる項目(9-16)

第9項「物理的及び化学的性質」は、引火点、沸点、蒸気圧、比重、pHなど、リスク評価の土台となる物理化学データです。第10項は安定性・反応性、第11項は有害性情報、第12項は環境影響情報、第13項は廃棄上の注意です。そして第14項「輸送上の注意」と第15項「適用法令」、第16項「その他の情報」(作成日・改訂日など)が続きます。特に第16項の改訂日は、そのSDSが最新版かどうかを確認する重要な手がかりになります。

輸送で特に重要な項目と読み解き方

危険物輸送の観点から特に重要になるのが、第14項「輸送上の注意」です。ここには、国連番号(UN番号)、正式輸送品名(国連輸送名)、輸送における危険物クラス、容器等級(パッキンググループ)、海洋汚染物質に該当するかどうかなどが記載されます。これらは、その荷物が航空・海上・陸上のどのモードで、どのような梱包・表示・書類を必要とするかを判断する出発点になります。国内輸送・国際輸送の双方で参照される、危険物担当者にとって最重要のセクションです。

ただし、注意すべき点があります。第2項のGHS分類と、第14項の輸送上の危険物分類は、目的も分類基準も異なります。第2項で炎などのGHS絵表示が付いていても、輸送上は必ずしも同じクラスになるとは限りません。反対に、一般的な製品に見えても輸送上の危険物に該当する場合があります。また、第14項に「該当しない(non-dangerous goods)」と記載されていても、数量、容器、輸送モード、仕向地によって扱いが変わることがあります。

さらに、SDSの記載だけで輸送可否がすべて確定するわけではありません。対象製品とSDSが一致しているか、SDSが最新版か、実際の数量や荷姿、利用する輸送事業者の受入条件などとあわせて確認する必要があります。第14項は「輸送判断の入口」であり、そこから実際の輸送条件や適用規則へと照合していくことが、正確な危険物輸送につながります。

どんな製品にSDSが必要か|対象と適用除外

SDSは、すべての製品に必要なわけではありません。法令で定められた「対象となる化学物質」や、それを一定濃度(裾切値)以上含む混合物を、事業者間で譲渡・提供する場合に必要になります。日本では、労働安全衛生法(安衛法)、化管法(特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律)、毒物及び劇物取締法(毒劇法)の3つの法律が、それぞれ対象物質を定めています。たとえば化管法では第一種・第二種指定化学物質として計649物質が、安衛法ではラベル表示・SDS交付・リスクアセスメントの義務対象として2,300物質超が指定されており、対象物質は段階的に拡大されています。

一方で、対象から外れる「適用除外」もあります。代表的なのが、主として一般消費者の生活の用に供される製品です。家庭用の洗剤や日用品として販売されるものは、事業者間取引におけるSDS交付義務の対象外となる場合があります。ただし、同じ成分でも業務用として事業者間で取引する場合は対象になることがあり、判断には注意が必要です。また、密封された製品(乾電池など)や、運搬・貯蔵中に固体で粉状にならない固形物などにも、個別の除外規定があります。

実務では、受け取った製品がどの法令の対象に該当するかを、SDSの第3項(成分・CAS番号)と第15項(適用法令)で確認し、厚生労働省「職場のあんぜんサイト」や経済産業省・NITEの対象物質リストと照合するのが確実です。「PRTR届出の対象外だから化管法SDSも不要」といった思い込みは禁物で、制度ごとに対象範囲が異なる点にも留意が必要です。

SDSは誰が発行し、いつ更新するのか

SDSは、その化学品を他の事業者へ「譲渡・提供する者(供給者=サプライヤー)」が発行・提供します。SDSの第1項に記載する会社情報は、製品の所有権を持って相手方へ渡す事業者のものであり、単に貨物を運ぶだけの運送業者や、売買に直接関与しない仲介業者は供給者にあたりません。サプライチェーンの起点となるのは製造業者と輸入者で、製品の危険有害性を特定し、16項目のSDSを作成する一次的な責任を負います。特に輸入品の場合、海外のSDSは英語かつ外国の法基準で作られていることが多いため、輸入者に和訳や国内法対応(必要に応じたSDS作成)の対応が求められます。

流通の途中に入る卸売業者や商社も、自社が「譲渡・提供」する当事者になるため、供給者として提供義務を負います。国内で製造された製品については、製造業者が作成したSDSの会社情報を自社のものに書き換えて提供することが認められています。ただし、記載内容に疑問や誤りがあれば、そのまま流すのではなく、製造業者へ確認・修正を依頼することが必要です。つまりSDSは、「販売する当事者ごとに、その時点の供給者が発行責任を負う」という考え方で運用されます。

立場 SDSに関する役割
製造業者・輸入者危険有害性を特定し、SDSを作成する一次的責任者
卸売業者・商社自社取引分の供給者。会社情報を自社に変えて提供可(内容確認は必要)
運送業者・仲介業者所有権を持たず運ぶ・仲介するだけなら発行義務者ではない

更新頻度についても、法令で定めがあります。2023年4月施行の安衛法改正により、SDSの通知事項のうち「人体に及ぼす作用(有害性情報)」について、5年以内ごとに1回内容を確認し、変更があれば確認後1年以内に更新することが義務付けられました。これに加えて、成分・組成の変更、GHS分類の変更、新たな有害性データの判明、法規制の改正などがあった場合は、随時更新が必要です。更新した際は、提供先へ変更内容を通知する義務もあります。実務上は、法改正やGHS分類の見直しサイクルを踏まえ、3-5年ごとの定期レビューを行うのが一般的です。

では、「内容が変わっていなければ、発行年月日が古いままでもよいのか」という疑問があります。結論として、SDSには「有効期限」という概念は法令上なく、内容に変更がなければ発行日が古いこと自体が直ちに違反になるわけではありません。しかし、注意が必要です。前述のとおり「人体に及ぼす作用」は5年以内ごとに確認する義務があるため、「古いまま放置」は認められず、「確認した結果、変更がなかった」という状態にしておく必要があります。また、政府のGHS分類結果(NITEの分類リスト)は毎年見直されており、「自社製品の中身は変えていない」つもりでも、分類根拠データの更新によって有害性区分が変わっている可能性があります。さらに、様式規格であるJIS Z 7253は2025年に改訂され、猶予期間はあるものの、更新のタイミングで新規格へ合わせるのが現実的です。内容を改訂した場合は、版番号と改訂日を必ず更新し、どれが最新版かを判別できるようにしておくことが重要です。

SDSの提供義務と罰則|3つの法律

SDSの提供は、法律上の義務です。安衛法第57条の2は、リスクアセスメント対象物を譲渡・提供する際に、相手方へSDS情報を通知することを義務付けています。化管法第14条は、指定化学物質やそれを含む製品を他の事業者へ譲渡・提供する際のSDS提供を義務付けています。毒劇法(施行令第40条の9)は、毒物劇物営業者が販売・授与する際の情報提供を定めています。3法令は目的も対象物質も異なるため、自社が扱う化学品がどの法令に該当するかを確認することが第一歩です。

では、SDSを提供しなかった場合に罰則はあるのでしょうか。まず、安衛法に基づくSDS交付義務違反については、罰則規定が新設されましたが、現時点ではまだ施行されていません。改正法では、SDS交付義務違反に対して6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が定められていますが、その施行時期は「公布から5年以内に法令で定める」とされており、2030年までには施行される見込みです。つまり、現在は罰則が適用されていない状態です。

ただし、罰則がないからSDSを交付しなくてよい、というわけでは決してありません。SDSを適切に交付していないことが判明すれば行政指導の対象となり得るほか、労働災害が発生した場合には責任を問われる可能性があります。なお、SDSと同じ対象物質に課される「ラベル表示義務」については、すでに罰則が存在します。ラベル表示を行わない、または虚偽の表示をした場合、安衛法第119条により6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科されます。SDSとラベルは、法令遵守と安全確保の両面から、確実に対応することが求められます。

まとめ

SDS(安全データシート)は、化学品の危険有害性と安全な取扱い方法を伝える文書で、GHSに基づきJIS Z 7253が16項目・記載順序を規定しています。まず第1-3項で製品と成分を確認し、第4-8項で応急・取扱い、第9-16項で物性・有害性・規制を読み解きます。危険物輸送では第14項が最重要ですが、SDSだけで輸送可否は確定しません。発行するのは製品を提供する供給者(製造者・輸入者が起点、卸・商社も自社取引分は責任者)で、運送・仲介のみの事業者は対象外です。更新は「人体に及ぼす作用」を5年以内ごとに確認し、変更あれば1年以内に更新します。有効期限はないものの、確認義務やGHS分類の更新があるため、古い日付のまま放置してよいわけではありません。SDSは安衛法・化管法・毒劇法で提供が義務付けられ、SDS交付義務違反の罰則は未施行ながら将来的に施行予定、ラベル表示義務違反には既に罰則があります。SDSは保管するだけの書類ではなく、安全に使いこなすための起点として活用しましょう。

参照・参考資料

マンガで学ぶ危険物輸送と危険品、貿易の基礎知識

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