第49話:GHS分類が決まらないとUN番号も決まらない?SDS担当者が迷う理由と輸送実務の確認手順
SDS担当者がGHS分類で悩んでいると、「GHS分類が決まらなければUN番号も決められないのでは」と考えがちです。しかし、GHS分類と危険物輸送分類は関係していても、同じ判定体系ではありません。GHSは化学品の物理化学的危険性、健康有害性、環境有害性を分類し、ラベルやSDSで情報伝達するための枠組みです。一方、UN番号は、輸送上の危険性、正式輸送品名、危険物クラス、容器等級などを輸送規則に従って決定する際に使います。
そのため、GHSの一部区分が「分類できない」でも輸送分類を判断できる場合があり、反対にGHS第2項が整っていても、輸送に必要な引火点、初留点、腐食性試験、自己反応性、環境有害性、製品用途、濃度、物理状態などが不足すればUN番号を確定できないことがあります。本記事では、2025年改正のJIS Z 7252・Z 7253や2026年版NITE-Gmiccsの情報も踏まえ、SDS担当者と輸送担当者がどのように役割分担すべきかを整理します。
目次
結論:GHS分類からUN番号を機械的に変換できない
GHS分類とUN番号には共通する危険性があります。例えば引火性液体、急性毒性、腐食性、酸化性、水生環境有害性などです。しかし、GHSの危険有害性区分を一覧表へ入れれば、自動的に一つのUN番号が出るわけではありません。輸送分類では、危険物リストに具体的な物質名があるか、一般化された品名を使うか、複数の危険性のどれを主危険性とするか、容器等級、特別規定、少量条件、海洋汚染物質などを確認します。
例えば、GHSで皮膚刺激性や眼刺激性に分類されても、それだけで輸送上のClass 8になるとは限りません。輸送上の腐食性には、皮膚への不可逆的損傷や金属腐食性に関する輸送規則上の基準があります。また、GHSで生殖毒性や発がん性の区分が付いていても、それだけで対応するUN番号が発生するわけではありません。輸送中に管理すべき急性の危険性と、職場・使用時に伝達すべき慢性有害性は重なる部分と異なる部分があります。
逆に、GHS第2項の分類が完全でなくても、物質名、濃度、物理状態、引火点、初留点、毒性値、腐食性試験、反応性など輸送判定に必要な根拠がそろえば、輸送規則に基づく判定を進められる場合があります。ただし、必要情報が確認できないまま、似た製品のSDSや過去のUN番号を流用してはいけません。
実務上の重要な結論は、GHS分類と輸送分類を別々に実施し、最後にSDS全体の整合を確認することです。SDS担当者だけ、輸送担当者だけに全判断を任せず、技術、環境管理、貿易管理、物流が根拠を共有します。
GHS分類と輸送分類は目的と判定基準が異なる
国連GHSは、化学品を危険有害性の種類ごとに分類し、ラベルとSDSによる調和された情報伝達を提供する枠組みです。2025年には国連GHS改訂第11版が公開され、エアゾール・加圧化学品、非動物試験による皮膚感作性、地球温暖化に寄与する危険性などの改訂が含まれました。ただし、日本国内のSDSを作成するときは、国連最新版をそのまま使用するのではなく、国内法令と現行JISがどの版・区分を採用しているかを確認します。
日本では、JIS Z 7252がGHSに基づく化学品の分類方法、JIS Z 7253がラベル、作業場内表示、SDSによる情報伝達を規定します。JIS Z 7253は2025年12月25日に改正され、国連GHS改訂第9版への対応関係が示されています。NITE-Gmiccsも2026年3月30日に改正JIS対応版へ更新されました。
輸送分類では、国連危険物輸送勧告を基礎に、航空ならICAO Technical InstructionsやIATA DGR、海上ならIMDG Code、国内陸上なら消防法など関係する法令・規則を確認します。同じ化学品でも、航空、海上、陸上で適用する特別規定、数量制限、包装、表示、書類、事業者差異が異なることがあります。
| 項目 | GHS・SDS | 危険物輸送分類 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 危険有害性の分類と情報伝達 | 輸送中の安全、包装、表示、積載等 |
| 主な結果 | 危険有害性クラス・区分、絵表示、H文 | UN番号、正式輸送品名、クラス、容器等級 |
| 確認資料 | 組成、物性、毒性、環境影響等 | 危険物リスト、試験値、優先順位、特別規定等 |
| SDSの主な記載箇所 | 第2・3・9〜12項等 | 第14項 |
分類が難しくなるデータ不足と情報の食い違い
GHS分類が難しい最大の理由は、必要なデータがそろっているとは限らないことです。単一物質でも、試験方法、純度、不純物、動物種、ばく露経路、判定時期が異なる資料が存在します。混合物では、各成分の分類、含有率、濃度幅、相互作用、製品としての試験結果を確認しなければなりません。「公的データベースに載っていない」は「区分に該当しない」という意味ではありません。
NITE統合版GHS分類結果は、政府による分類事業の結果を整理した重要な参考情報ですが、NITEは、分類結果を引用して作成したラベル・SDSの責任は作成者にあること、他の文献や試験結果を根拠として異なる分類を行うことを妨げないことを明記しています。したがって、データベースの結論をコピーするだけではなく、対象物質、CAS RN、純度、状態、分類根拠、更新日を確認します。
情報源が食い違うときは、「どちらが正しいか」を印象で選びません。法的に調和分類が指定されているか、試験報告書の信頼性、ガイドライン適合性、対象物質の同一性、試験条件、データの新しさ、分類に使えるキースタディかを整理します。採用しなかった資料も、理由を分類記録へ残します。
輸送担当者が必要とするデータも早めに明確にします。液体なら引火点と初留点、毒性物質なら経口・経皮・吸入の急性毒性値、腐食性物質なら皮膚腐食性と金属腐食性、環境有害物質なら水生毒性と分解性・蓄積性などです。試験値がない場合は、推定だけで輸送可否を決めず、技術担当者、製造者、試験機関、専門家へ確認します。
混合物分類で起こる実務上の難しさ
混合物のGHS分類では、製品としての試験データ、つなぎの原則、成分に基づく計算などを危険有害性項目ごとに使い分けます。すべての項目へ同じ加算式を使うわけではありません。急性毒性推定値の計算、皮膚腐食性・刺激性の濃度限界、水生環境有害性の加算法など、分類ロジックが異なります。
NITE-Gmiccsは混合物のGHS分類、ラベル、SDS様式の作成を支援しますが、主な対象は健康有害性と環境有害性であり、物理化学的危険性は基本的に分類できないと案内されています。したがって、Gmiccsへ組成を入力しただけで、引火性液体、自己反応性、酸化性、金属腐食性などを含む製品の全分類が完成するわけではありません。出力様式も、製品の実態に合わせて作成者が必要事項を記入します。
成分濃度に幅がある製品では、どの濃度で分類するかが問題になります。通常の製造ばらつき、原料変更、不純物、営業秘密の扱いを確認し、最も危険側の組成を単純に採用するだけで合理的か、法令・JIS・社内方針に基づき判断します。製品グレードが違うのに同じSDSを使う運用も、分類不整合の原因になります。
輸送分類は、混合物GHS分類の計算結果だけでは決まりません。引火性と毒性を併せ持つ製品、腐食性と毒性を併せ持つ製品などでは、輸送規則の危険性の優先順位表や個別品名、一般品名を確認します。組成変更があれば、SDS第2項だけでなく第14項、包装、ラベル、運送会社登録も再評価します。
UN番号を決めるときの検討順序
UN番号の検討では、まず出荷する現物を特定します。製品名、品番、製造者、組成、濃度、物理状態、温度条件、用途、包装前の形態を確認します。廃棄物、使用済み品、試作品、返品品は、新品と性状や適用できる品名が異なる場合があります。
次に、輸送上の危険物クラスに該当する性状があるかを確認します。爆発性、ガス、引火性液体、可燃性固体、自然発火性、禁水性、酸化性、有機過酸化物、毒性、感染性、放射性、腐食性、その他の危険性を、該当する試験・基準で評価します。GHSの分類結果は有力な情報ですが、輸送基準への該当性を別に確認します。
危険物に該当する場合は、危険物リストから品名を選びます。一般に、具体的な化学名の品名、包括的な品名、特定品目を表す品名、n.o.s.品名などを、適用規則に従って検討します。複数の危険性がある場合は、個別エントリー、危険性の優先順位、副次危険性を確認します。
- 現物・品番・組成・物理状態を特定する
- 輸送上の各危険物クラスへの該当性を評価する
- 複数危険性の優先順位と副次危険性を確認する
- 危険物リストから適切な正式輸送品名を選ぶ
- UN番号、クラス、容器等級、特別規定を確定する
- 航空・海上・陸上の包装、表示、書類、受託条件を確認する
輸送コストが安い方のUN番号を選ぶことはできません。候補が複数ある場合、実際の性状と規則に最も適合する品名を選びます。コストや納期を検討するのは分類の後であり、包装変更、数量分割、輸送モード変更など、適法な選択肢の中で行います。
SDS第14項を第2項だけから作らない
SDS第14項には、国連番号、正式輸送品名、輸送における危険有害性クラス、容器等級、環境有害性、使用者のための特別な予防措置など、輸送に関する情報を記載します。経済産業省の標準的な書式も、第14項を「輸送に関する国際規制によるコード及び分類」等の記載項目として示しています。
第14項を作る際は、第2項のGHS絵表示だけを見ません。第3項の組成、第9項の状態・引火点・沸点等、第10項の反応性、第11項の急性毒性・腐食性、第12項の環境有害性、第15項の国内法令を横断します。製品としての試験報告書、製造仕様、過去の輸送分類記録も照合します。
実際のSDSには、GHSで健康有害性が複数付いているのに第14項は輸送非該当となる例があります。逆に、輸送上Class 3に該当し、UN番号、正式輸送品名、容器等級が記載される例もあります。これは矛盾とは限らず、GHSと輸送分類の対象範囲が異なるためです。ただし、第9項の低い引火点と第14項の非該当が整合しないなど、疑義がある場合は作成者へ根拠を照会します。
SDS第14項は、航空・海上・陸上の受託を保証する証明書ではありません。最新版規則、数量、包装、容器、仕向地、国別差異、運航者・船社差異を今回の出荷条件で確認します。SDSの記載が古い場合や、輸送モードが明示されていない場合は、出荷を止めて再確認します。
SDS担当者と輸送担当者の連携手順
分類を円滑に進めるには、SDS担当者が完成版を作るまで輸送担当者が待つのではなく、初期段階から必要情報を共有します。SDS担当者は、製品の組成、GHS分類、分類根拠、未確定項目、試験値を管理します。技術担当者は、原料、製法、物性、試験報告、変更履歴を提供します。輸送担当者は、輸送規則上追加で必要な項目と、予定するモード・数量・荷姿を提示します。
| 担当 | 主な役割 | 共有する情報 |
|---|---|---|
| 技術・製品担当 | 製品同一性と試験根拠 | 組成、物性、試験、変更履歴 |
| SDS・環境管理担当 | GHS分類とSDS整合 | 分類根拠、情報源、未確定事項 |
| 貿易・輸送担当 | 輸送分類とモード条件 | UN番号候補、包装、規則、受託条件 |
| 物流担当 | 現物・荷姿の照合 | 容器、数量、表示、梱包写真 |
候補が複数ある場合は、「どちらが安く運べるか」ではなく、「どのデータが不足しているため結論が分かれるか」を一覧にします。例えば、引火点の試験方法、吸入毒性の物理状態、腐食性試験、環境有害性、混合物中の濃度範囲などです。その不足データの取得方法、担当者、期限を決め、判定前の出荷を保留します。
分類確定後は、SDS改訂だけで終わらせません。製品マスター、危険物判定票、標準包装、ラベル、危険物申告書テンプレート、運送会社登録、外部倉庫指示を更新します。改訂前在庫や旧ラベル品が残っていないかも確認します。
間違えやすいポイントと出荷保留の判断
第一の誤りは、「GHS絵表示があるから必ずUN番号がある」という判断です。GHSの健康有害性・慢性有害性には、輸送危険物に直結しないものがあります。第二の誤りは、「GHSで分類できないから輸送も非危険物」という判断です。データ不足は非該当を意味しません。
第三の誤りは、NITEや他社SDSの分類をそのまま自社製品へ転記することです。単一物質の分類情報は参考になりますが、自社製品の純度、不純物、濃度、物理状態、混合組成に適合するか確認します。第四は、SDS作成支援ツールの出力を完成品と考えることです。特に物理化学的危険性や第14項は、別途の根拠確認が必要です。
第五の誤りは、候補の中から輸送費が安い分類を選ぶことです。分類は性状と規則に基づき決め、事業上の選択はその後に行います。第六は、SDS第14項が空欄または「情報なし」でも一般貨物として出荷することです。輸送判定が未完了なら、判定責任者が根拠を確認するまで出荷保留とします。
出荷保留の代表例は、製品品番とSDSが一致しない、組成変更が反映されていない、引火点の試験方法が不明、GHSと第14項が明らかに不整合、UN番号候補が複数のまま、航空・海上条件が未確認、運送会社から追加資料を要求されている場合です。保留理由と解除条件を記録し、担当者個人への催促だけにしないことが重要です。
まとめ:分類を一人の職人芸にしない
GHS分類は、データの収集、信頼性評価、危険有害性項目ごとの判定、混合物計算、分類根拠の記録を必要とするため、担当者が慎重になるのは自然です。しかし、GHS分類からUN番号を一対一で変換することはできません。輸送分類は、輸送規則と輸送に必要な試験値を使って別に判断します。
UN番号が決まらないときは、GHS分類が完成していないこと自体ではなく、輸送判定に必要な何のデータが不足しているかを確認します。物質名、組成、濃度、物理状態、引火点、初留点、急性毒性、腐食性、反応性、環境有害性、用途、荷姿を整理してください。
SDS担当者はGHS分類と情報伝達、技術担当者は製品・試験情報、輸送担当者はUN番号・包装・モード条件、物流担当者は現物・荷姿を担当します。分類候補が複数ある場合、輸送コストで選ばず、不足データを取得して規則に基づき確定します。
正しい実務は、担当者の勘で一行のUN番号を決めることではなく、根拠、未確定事項、承認、変更履歴をチームで管理することです。これにより、SDS改訂、製品変更、規則改訂があっても同じ判断を再現できます。
参照・参考情報
- UNECE「Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals, Rev.11」
- 経済産業省「国連GHS文書」
- 日本規格協会「JIS Z 7253:2025」
- NITE「GHS総合情報提供サイト」
- NITE「NITE統合版GHS分類結果」
- NITE「GHS混合物分類判定ラベル/SDS作成支援システム NITE-Gmiccs」
- 経済産業省「化管法SDS 標準的な書式」
- 経済産業省「化管法SDS制度 作成・提供方法」
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